フットウェアに広がる “引き算” 現象

私は筋金入りのランナーだ。とは言え、私がこの話を持ち出したのは、優越感をひけらかしたいからではない。むしろこの時期になると、夏のフットウェアの少なさを改めて思いしらされ、足もとに対して劣等感すら覚える。一般論かもしれないが、何より、いつもボロボロの私の足にとってはなおさらだ。

今シーズン、つま先を隠したい人も、単にビーチサンダル以外でまともな選択肢が見つからない人も、実際に選択肢の少なさを痛感することになるだろう。それは文字通りの意味でも、ルックス的な意味でもだ。スニーカーの一強時代が崩れ、Havaianas(ハワイアナス)やBIRKENSTOCK(ビルケンシュトック)、そのほかお馴染みの夏用サンダルが溢れる中で、残された選択肢の幅は驚くほど狭い。文字通り、シューズそのもののシルエットまで細くなっている。

NIKE × JACQUEMUS
ムーンシューズ
CAMPER
スエードローファー
Timberland
レイクハウス クラシック 2アイ ボートシューズ

例えば、VANS(ヴァンズ)の「オーセンティック」のような、クラシックでカジュアルかつシンプルなシューズの復活(そして、それをラグジュアリー化した無数のバリエーション)や、ダービーシューズやローファー、モカシンのようなレトロで伝統的なフォルムの再流行などがそうだ。気温が上がるにつれ、フットウェアの徹底した簡素化はさらに加速している。バレエシューズのようなフラットシューズは、いまや誰もが履く(そして誰もが作る)ものになり、ソールは消え入りそうなほど薄くなっている(あるいは、単純に存在しない)。場合によっては、ソックスとスリッパの違いすら、ほとんど判別できない。まるでシューズが異常な速度で痩せていくようだ。最近では、あのゴツゴツしたソールで知られるNIKE(ナイキ)の「ムーンシューズ」ですら、ワッフルというよりウエハースみたいに見えてきている。

つまり、フットウェアはいまダイエット中なのだ。それも、一時的ではなく継続的な。シューズはますます細く、薄く、軽くなり、ビーチサンダルのような極限まで削ぎ落とされたミニマルさを帯びてきている。値段を除いては。3ホールのスケートシューズやデッキシューズには必ず高級版が存在し、Timberland(ティンバーランド)にはMIU MIU(ミュウミュウ)があり、Keds(ケッズ)にはCELINE(セリーヌ)がある。ALAÏA(アライア)からARKET(アーケット)、Clarks(クラークス)からCAMPER(カンペール)まで、フットウェア全体がますます削ぎ落とされたフォルムへと向かっている。そう考えると、私が愛用しているOUR LEGACY(アワー レガシー)のミュールは、少し風変わりにすら思えてくる。

© HIGHSNOBIETY

実際のところ、この夏、サンダル以外の選択肢として頼りになるのは、削ぎ落とされたニッチなスニーカーかもしれない。例えば、SUPERGA(スペルガ)やVICTORIA(ヴィクトリア)、Bensimon(ベンシモン)、あるいはASAHI(アサヒ)やSpring Court(スプリングコート)などだ。これらのブランドは長年、それぞれの国や地域で独自のポジションを築いてきたが、“必要最低限だけ” という魅力が広く支持され始めたことで、いま注目を集め始めている。ニッチ度合いには差があるにせよ、いずれもイタリアやフランス、スペイン、日本といった母国の特定のカルチャーやコミュニティで支持されてきたブランドであり、似た系統のキャンバススニーカーほど国際的な主流ファッションに食い込んできたわけではない。そして私は、そうしたシューズ達が驚くほど万能で、豊富なカラーバリエーションを持ち、さらには誰が望んだのか分からない “足袋化現象” からも距離を保っているところも、なんとも魅力を感じている。

しかし、その対極では興味深い動きも見られる。ミニマリズムの反対側にあるのは、かつては特定の用途に限られていた超テクニカルなギアを、日常的に取り入れる流れかもしれない。例えば、adidas(アディダス)の「アディゼロ」だ。元々は機能性を徹底的に追求したランニングシューズだが、いまや本格的なライフスタイルシューズとしての地位を確立しつつある。それは、同ブランドのフットボール(いわゆるサッカー)スパイクがファッション文脈へ進出している流れとも重なる。さらに、Village PM(ヴィレッジピーエム)のクライミングシューズ風スケートスニーカーの盛り上がりもまた、実用性そのものにクールさを見いだす、この潮流を象徴しているように思える。

OUR LEGACY
スリッポン ローファー
adidas Originals
スタンスミス ロー プロ
ZARA
バレエシューズ

というわけで、サンダルを避けたい人にとって最高の夏のフットウェアは、実はかなり選択肢が豊富なのかもしれない。その多くは、専門性の高いスポーツ用品コーナーや、それを取り巻くコミュニティの奥深くから生まれている。あるいは逆に、あまりに当たり前すぎて忘れていたようなところに転がっていたりもする。例えば、編集者が地下鉄で見かけた、いかにもLEMAIRE(ルメール)っぽい上品なバレエシューズのように。思わず持ち主に声をかけて聞いてみたところ、それはZARA(ザラ)のもので、価格は100ドル以下だったと言う。お役に立てたなら何より。