藤原ヒロシが夢のコラボを実現するまで。
日本のストリートウェアの先駆者であり、謎多きプロジェクト「fragment design(フラグメント・デザイン)」を手がける藤原ヒロシが1990年代に家を建てた理由は2つあった。それはむき出しの配線が嫌だったことと、BANG & OLFSEN(バング アンド オルフセン)への愛だった。「BANG & OLFSENのホームオーディオシステムを導入したかったんです。すると友人に『ヒロシ、このスピーカーを買うなら、家を建てなきゃいけないよ。壁にケーブルが出ていると本当にダサいから』と言われたんです」と、藤原は振り返る。「それまでケーブルがそんなにかっこわるいものだと思っていなかった。でも壁の裏に配線して、全部屋に繋ぐためには家を建てるしかない。だから建てました」
藤原の当時を物語るものは、ほとんど残っていない。A BATHING APE(ア・ベイシング・エイプ)のNIGO(ニゴ)やUNDERCOVER(アンダーカバー)の高橋盾をはじめとする、初期の日本のストリートウェアファンにとってのバイブル的存在であった彼の連載『Last Orgy』も、とうの昔に終了している。さらにfragment designの前身であり、藤原の親友であるショーン・ステューシー(Shawn Stussy)が名付けに関わったとされるELECTRIC COTTAGE(エレクトリックコテージ)や、GOODENOUGH(グッドイナフ)といったブランドも、既に存在しない。限定コラボレーション商品のみを取り扱っていた東京のショップ、READYMADE(レディメイド)もまた、20世紀最後の1999年12月31日に幕を閉じた。それでも藤原は今も同じ家に住み続けている。そして4月初旬、コペンハーゲンのホテルでインタビューに応じた彼からは、BANG & OLUFSENへの執着がいまなお色濃く感じられた。
藤原が身につけていたのは、自身が手がけてきた数々のプロダクトだった。年末発売予定のTimberland(ティンバーランド)× fragment designのオールブラックボートシューズに、様々なピンでカスタマイズされた自身のブランドSEQUEL(シークエル)のデニムジャケット(そのうちのひとつには「Snoopy for President」と書かれており、「ドナルド・トランプ(Donald Trump)よりスヌーピーの方が好きかもしれないね」と藤原は笑う。そして外すことのない分厚い黒縁のOAKLEY(オークリー)× fragment designのサングラス、首にはBANG & OLFSEN × fragment designの「Beoplay H100ヘッドフォン」がかけられていた。このプロジェクトを藤原はインタビュー中に何度も “夢のようなコラボだ” と表現している。コーヒーテーブルブック3冊では収まりきらないほどのコラボを発表してきた人物の言葉だと思うと、なおさら印象的だ。

藤原は今、fragment designらしい定番の手法を踏襲した2,400ドルのヘッドホンで、お気に入りの新鋭シンガー、アーロ・パークス(Arlo Parks)の曲を大音量で流している。多くのコラボと同様、このヘッドホンも全体はオールブラックで統一され、外側にはおなじみのサンダーマークが大きくあしらわれている。しかし、BANG & OLUFSENにとってこれは未知の試みでもあった。“職人技” とも言えるアルマイト加工を施し、さらに手作業で磨き上げられた光沢アルミニウムのボディは、本来なら同ブランドの最上位スピーカーにのみ用いられてきた素材だ。ポータブル製品に使用されるのは今回が初となる。
ヘッドホンとあわせて、3種類のスピーカーも展開される。ひとつは475ドルの「Beosound A1 第3世代」。コンパクトなポータブルスピーカーで、藤原は、黒いグリルの下に白いfragmentのロゴを加えることで、より控えめな印象に仕上げた。もうひとつは7,100ドルの「Beosound Shape」。7つの “タイル” を組み合わせ、花のようなフォルムを描く壁かけスピーカーとなっている。最後は、受注生産かつ日本限定モデル、69,650ドルの「Beosystem 9000c」。こちらは、100年の歴史を持つ老舗オーディオブランドを象徴する90年代の6枚組CDプレーヤー「Beosound 9000c」と、「Beolab 28」ラウドスピーカーを組み合わせたセットアップで構成されており、いずれも特徴的な光沢アルミニウム製である。


このデビューコレクションは、5月20日より東京・新宿の伊勢丹百貨店内のポップアップストアで先行販売され、6月3日からグローバル展開される。つまり、このHi-Fiコレクションは、fragment designsとF.C. Real Bristol (F.C.リアル・ブリストル)との「FOOTBALL IS NEVER BORING」コレクションや、CADO(カドー)とのハンディファン、そしてA.P.C.(アーペーセー)との限定生デニムセットと同じ月にリリースされることになる。相変わらず息つく暇もなさそうだ! もっとも、fragment designにとってコラボは本業のようなものだ。
会期:5月20日(水) 〜 7月7日(火)
会場:伊勢丹新宿店 本館1階 ザ・ステージ、阪急メンズ大阪 1階 メインステージ、岩田屋本店本館 1階 KIRAMEKI BOARD
「fragmentはブランドのようなものですが、自分達では何も作っていないんです」と藤原は説明する。その代わりに彼らが生み出すのは、Nike(ナイキ)のスニーカーからゲーミングノートPCに至るまで、ほかブランドの製品とのコラボモデルだけだ。それらはストリートウェア界の重鎮である藤原のお墨付きが加わることで、瞬く間に価値を帯びていく。「説明するのは難しいんですよ」と藤原は続ける。「だから、あまり説明しない。『知らなくてもいいよ』と言っているんです」
藤原は常に5~10件のコラボプロジェクトを同時進行で進めている。では、彼はどのようにその相手を選んでいるのだろうか? そして、良いパートナーシップとはなんなのか?「リスペクトですね」と、藤原は間髪入れずに答えた。そして少し考えこんでから、こう続けた。「単にロゴを使いたいだけの人もいれば、自分のやり方を押し通したいくらい強いヴィジョンを持っている人もいる。でも私にとってコラボとは、会話なのです。相手が何を求めているのかを理解して、自分がやりたいことも伝え、その中間地点を探っていくというか」
62歳の彼が何かを気に入れば、ほとんどの人々はそれに追随する。藤原は1980年代からトレンドセッターであり、ニューヨークのヒップホップを日本にいち早く持ち込んだDJの一人でもあった。そしてロンドンでマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)とその当時の恋人ヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)と親交を深めたことで、初期のヒップホップシーンについての情報を得ることになる。レコードを東京に持ち帰るだけでなく、旅先から服や記念品も持ち帰るようになり、それがやがて自らの衣服制作へと繋がっていった。あとはご存知の通りだ。彼が “ストリートウェアのゴッドファーザー” と呼ばれるのには、理由がある。
今日まで、このデザイナーは多くの時間を移動に費やしている。「よく旅をしています。人との出会いや、ただお茶をするだけでも、本当に大事なことだと思います」と彼は語る。コペンハーゲンに来る数週間前にはラスベガスに滞在しており、ギャンブルには興味がないものの、「面白い」と感じたという。彼にとって、その滞在のハイライトは “クレイジー” で “素晴らしい” ラスベガス・スフィアだった。
彼は今もなおソロ音楽活動(来年には新アルバムのリリースを予定している)、最新のリテール事業、そして渋谷のレコードショップの歴史をテーマにした書籍の制作など、数多くのサイドプロジェクトに取り組み続けている。それと同時にfragment designの幅広いコレクションも監督している。念願のコラボを実現したからといって、今後コラボから距離を置くつもりは全くない。「これからも続けていきたいと思っています。BANG & OLUFSENについても、まだアイデアがたくさんあります」と彼は語る。「とにかく働くのが好きで、常に何かをしていたいんです」
- Words: Tom Barker
- Photography: © Bang & Olufsen