life
Life beyond style

© COURTESY OF BURBERRY

今週初めLinkedInを見ていると、「Bottega Veneta(ボッテガヴェネタ)」のCEO、バルトロメオ・ロンゴーネ(Bartolomeo Rongone)の投稿が目に入った。「グランドハイアットソウルのグリーンのMAZEインスタレーション。予想外のロケーション。プロダクトなし。大好きなものに浸る没入型体験」と題されたその記事には、Bottega Venetaのシグネチャーであるグリーンのフェイクファーの壁、金属製の構造物、ロゴ入りのガムテープで装飾された16メートルに及ぶ空っぽの迷宮を写した写真6枚が添えられていた。タイトルに書かれた通り、プロダクトは一切置かれていなかった。

それから1日も経たないうちに今度は「LOUIS VUITTON(ルイ・ヴィトン)」から、ロンドン南西部の英国旗艦店のすぐ近くに240平方メートルのミニ森林の植林を行ったという知らせが入った。地元議会と、都市空間における原生林の復元活動で知られる有名団体SUGIとのコラボレーションによって作られたこの「ヘリテージフォレスト」には、22種類の原生樹木と55種類に上る在来の野花が植えられ、3年以内の自給実現を目指している。LOUIS VUITTONの持続可能開発計画「Our Committed Journey」の一環として立ち上げられたこのプロジェクトでは、2025年までに自然資源保護を実現することが目標に掲げられている。

 

この投稿をInstagramで見る

 

designboom magazine(@designboom)がシェアした投稿


さらにイタリア発の「A|X ARMANI EXCHANGE(アルマーニエクスチェンジ)」も3日前、創立30周年を記念し、有名ラジオプラットフォーム「NTS」とのグローバルコラボレーションを発表した。地元のミュージシャンやDJとA|X Armani Exchangeの複数の店舗との協力で世界各地の店舗の使用に向けたDJミックスが制作され、キャンペーンに合わせたイベントが開催されるといった内容だ。さらにその翌日には「BURBERRY(バーバリー)」から、パリで開催のドイツ人ヴィジュアルアーティスト、アンネ・イムホフの展覧会閉幕を祝うイベントを前夜に開催したとの旨のメッセージが届いた。パレ・ド・トーキョーの外、展覧会のすぐ近くで、イムホフと「BALENCIAGA(バレンシアガ)」のミューズ、エリザ・ダグラスがアートパフォーマンスを披露。その後も遅くまで、ブランドの友人らがDJを聞かせたとある。

© COURTESY OF LOUIS VUITTON

一回落ち着こう。何が起きているというのか? 高級ファッションブランドは今なぜか、製品以外のものばかりについて、あれこれとブランドアクティベーションを行っている。そう、これまで何十年もの間、ロイヤルバレエの衣装デザイン、展覧会の主催、ブランド本の発売、大ヒット映画やミュージシャンの衣装デザインなどを手がけてきた高級ブランドだ。パーティーや開店祝い、食事会も何千回となく行ってきた彼らが、今週のように製品以外のマーケティング活動を頻繁に行い、投資を増すというのは、前例のない現象だ。

どのブランドも、知り合いの投稿でいっぱいのソーシャルメディア、お気に入りのレストランから宣伝情報の届くメールの受信箱、そして従来コカコーラのような一般消費者向けブランドのものであったビルボードへと進出し、製品の領域を超えてブランドの世界を拡大すべく、コンテンツ発信者として活動を展開し始めている。

© COURTESY OF ARMANI EXCHANGE

Instagramのようなスピード感での新しさの発信が求められる今の時代、物理的な製品を持続可能でない時間軸で提供し続けるだけのブランドは立ち行かない。人類の新しさへの渇望をそれでもなお満たし、ブランドとしてのコンテンツカレンダーを充実させるべく、各ブランドはプロダクトの枠を超え、体験型マーケティングを選択するようになりつつある。全ての場所に存在する全ての人が競合となり得るのが今の時代だ。そんな中、消費者の時間、注意、お金、そして最終的には忠誠心の争奪戦から生まれてきた動きと言えるだろう。

HIGHSNOBIETY(ハイスノバイエティ)」のNot in Paris ショーケースも、BALENCIAGAが前回のパリ・ファッション・ウィーク中に放送したシンプソンズの特別番組も、Bottega Venetaの季刊誌「Issued By Bottega」も、「GUCCI(グッチ)」のGuccifestも、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)」によるLOUIS VUITTONの舞台裏映像も、「LOEWE(ロエベ)」の「Show in a Box」も、フランス人映像作家のロイック・プリジェント率いるチームによる、「JACQUEMUS(ジャクムス)」から「Rick Owens(リック・オウエンス)」に至るまでの諸ブランドの内部事情紹介も、全て同じ流れを汲んでいる。

© COURTESY OF BURBERRY

そして何より顕著な例が、テルファー・クレメンス(Telfar Clemens)の「Telfar TV」だ。1日24時間の新ライブリニアTVネットワークで、内容はライブショーや今後発売される商品の速報、コミュニティ紹介から構成される。チャンネルは先月、ニューヨーク・ファッション・ウィークで行われたクレメンスの記者会見で発表されたもので、イベント自体がコンテンツとなっている。Telfar TVのウェブサイトではブランド自身が「私たちは他チャンネルに対してコンテンツを提供し続けるだけでは満足できなくなりましたので、コンテンツのない空状態で独自のTVチャンネルを立ち上げました。これからチャンネルができていく様子をTelfar TVでライブにてご覧ください。また動画のご投稿でチャンネルにご参加ください」と発信している。

 

この投稿をInstagramで見る

 

@telfarglobalがシェアした投稿

これらはいずれも単なるキャンペーンではない。各ファッションブランドがファッションに限定されない広範な「ブランド」になろうとしている第一歩だ。単純な進化に見えるかもしれないが、多くのファッションブランドが今、今後境界線なく様々な分野で存在、活動する、ということに向かって、考え方を変える革命が起きている。将来的にはNetflixのようなストリーミングプラットフォームとの番組、ドキュメンタリーの共同制作、メタバースやゲームとの関係強化、視聴者の関心事や好みのブランドについての広範な紹介活動などが見られるようになるだろう。

これまでのように全て製品ありきということではなく、非物理的なものから収益を得るための新クリエイティブ手法が、新たなコンセプトや分野への徹底的試行錯誤を通して、今生まれようとしている。今後の展開に注目しようではないか。