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Life beyond style

2020年4月23日、Netflixにて全世界独占配信がスタートする士郎正宗原作によるSFアクション『攻殻機動隊』シリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』。オープニングテーマには、King Gnu率いる常田大希によるプロジェクト、millennium paradeの楽曲「Fly with me」が決定した。そこで、世界が注目する『攻殻機動隊 SAC_2045』監督の神山健治 × 荒牧伸志と、millennium paradeの常田大希、佐々木集(プロデューサー/デザイナー/クリエイティブディレクター)、神戸雄平(デジタルアーティスト)の5名による座談会を実現。 世代を超えた未来派野郎たちの “表現活動の核心” へと切り込む貴重なトークとなった。

——『攻殻機動隊』シリーズとは、どのようにして出会ったのですか?

常田大希(以下常田):自然と情報が入ってくるくらい人気も認知度もあるシリーズ作品でしたが、最初は知り合いを通してです。世界観が広がりましたよね。

——millennium paradeとある種、ネオトーキョー感や、海外から見たTOKYOのイメージに近い世界観を感じたんですが、どこに面白さを感じましたか?

常田:ああいう都市の描き方、未来都市の描き方にすごい憧れがありました 。近未来をここまで可視化させるっていうのは、あまり他の作品ではなかなかできなかったことだと思うし、それが細部にわたって描かれている作品の金字塔だと思うので。俺達もネオトーキョー感をテーマとして引っさげてやっている部分で距離感が近いなと思っています。

神戸雄平(以下神戸):僕は東京のアニメとかも映らないめちゃめちゃ田舎に住んでいて、当時は情報を得る機会があまりなかったんです。中学生の時にインターネットが自分の趣味の幅を広げてくれて、そこで教えてもらったのが押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』でした。世界観に圧倒されて、その後、神山(健治)監督による『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』が始まって、どんどんのめり込んでいきました。

——『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のどの辺りに衝撃を受けましたか。

神戸:主人公の(草薙)素子が『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』だと人形使いと融合してしまうところにすごく衝撃を受けましたし、残念に思っていた部分で。悲しさみたいなものを感じました。『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』だと、それがないパラレルワールドという設定が描かれていて嬉しかったんです。あと、公安9課のメンバーの人情やキャラクターを一人一人きちんと描いていただけていたのも嬉しくて。作品としてもっと好きになれる要素がありました。

神山健治(以下神山):それはとても嬉しいですね。こだわっていたポイントなので。

——今回、『攻殻機動隊 SAC_2045』にてmillennium paradeをオープニングテーマのアーティストに起用されたきっかけについて教えてください。

荒牧伸志(以下荒牧):僕らが音楽を選定するのって、どうしても作業の後半になってしまうんですよ。もちろん絵を作っている時から、どういう人にどんな音楽を作ってもらおうかは意識してるんですけど。大事なのは『攻殻機動隊』に求められる新しさ。ただ、だんだん僕らもおっさん化してきてるので、とがった音楽ってどういう方向に行ってるの? みたいなのが、ちょっと僕らも分からなくなってきているところがあって。そんな中、音楽を担当しているフライングドッグに提案してもらったのがmillennium paradeでした。「なるほど!」と。常田さんに訊きたいのは、あなた達の音楽をカテゴライズするとしたら何という音楽になるのですか?

常田:ミクスチャーですかね。それこそ音楽にもいろいろジャンルがありますけど。様々な要素が融合している形だと思います。

荒牧:僕らだとなかなか言語化できないから。聴くと「なるほど!」知らない音楽が始まっているんだなと感じました。そんなmillennium paradeにオープニングで参加してもらえるのは、すごいチャンスだと思っています。

神山:millennium paradeの楽曲を最初に聴いたのは「Veil」のMVでした。フルCGで顔がいっぱい付いている人が歌ってるやつですね。 MVを観てまず、面白いことをやってるんだなっていう第一印象でした。

荒牧:映像から、世代は違うんですけど、もしかしたら僕達と近いものを持ってらっしゃる方達なのかなって。

荒牧伸志
Photo by Takashi Togawa

——millennium paradeが昨年5月22日に恵比寿リキッドルームで行ったローンチパーティ、そして12月に開催となった「millennium parade Live 2019」、どちらも1曲目に披露したのが『攻殻機動隊 SAC_2045』オープニングテーマというのは公表せず披露された「Fly with me」でした。

荒牧:ライブ映像を拝見しました。ステージ全体に映像を流して、没入感の高い3Dメガネによる演出で、それが一体となった感じが伝わってきました。

——3Dメガネでダイブする感じというのは、『攻殻機動隊』とも繋がるところがありそうです。3Dメガネの演出は、どのような考えで取り入れたんですか?

常田:単純にヴォーカルが3Dで飛び出てきたらインパクトあるじゃん的な。millennium paradeの場合は、CGのキャラクターが3Dで立体的に前へ出てきて歌ったり飛び交ったりするって感じなので、音楽的にも演出的にも無限大の可能性が広がるかなと。

荒牧:ステージの人も全部まとめてプロジェクションして、それを3Dで観たらどんな風に伝わるのか。単純に現場に行きたかったって思いました。

常田:音も映像も照明も共存している感じなんです。

神戸:僕はPAから観ていたのですが、(12月のライブでは)ステージの奥にスクリーンがあって。投影されながらステージにいる人は歌ってるしバンドも演奏してるし。気持ち悪いけどめちゃめちゃ気持ちいいみたいなことが起きていて。観ていて感動しましたね。

佐々木集(以下佐々木):5月にやった一番最初のライブは、紗幕という透過するスクリーンをステージの前へ垂らして、そこへ投影をしていたんです。でも、12月は広さもあったので紗幕ではなくステージ背景に投影して。

常田:人の重要性というか。やっぱり演者を観て、肉体の動きの凄さを伝えたいんですよ。最終的には、それこそが人の心を動かすことになるのかなって。

荒牧:確かに紗幕があると、映像と演奏が切り分けられてしまうかもね。 それを人がいるところを含めてプロジェクションするんだっていうセンスにびっくりしました。今後もこの方向性でやられるんですか?

常田:今年はもっとでかくいきます。ぜひ、観にいらしてください。

——『攻殻機動隊』は、荒牧さんが黎明期から挑戦し続けられたモーションキャプチャの技術が活用されています。テクノロジーの進化が作品に与える影響に関してどのように考えていますか?

荒牧:テクノロジーに関しては、持っているイメージが先にあるかどうかが大事だと思っています。いかに自分達なりにアレンジして使いこなせるかが大事ですよね。みなさんは、結果的に面白いことになったっていうことをライブでやってらっしゃるのがすごいなと。アニメーションのような作品じゃなかなかできないんです。そういうことを実験的にやられているのが面白そうだと思いました。

——『攻殻機動隊 SAC_2045』オープニングでのmillennium parade「Fly with me」とシンクロする映像はいかがでしたか?

常田:(草薙)素子が作られていくCGを見たら、それはアガるよね。

神戸:感動しました。『攻殻機動隊 SAC_2045』とコラボってほんまやったんや……って(笑)。

佐々木:子供の頃から知ってる作品に、自分達の身近な音がついてるのは感慨深かったですね。

——世界初のフル3Dライブアニメーションとなった『APPLESEED』の荒牧監督と、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の神山監督が一緒に『攻殻機動隊』で共同で監督をされるっていうのはアガりますよね。両監督でタッグを組まれたNetflixでのフル3DCGアニメーション『ULTRAMAN』での流れもありつつだと思うのですが、『攻殻機動隊』となるとまたスペシャル感が高まります。4月からスタートする『攻殻機動隊 SAC_2045』は、どんな経緯から制作がスタートしたのでしょうか?

荒牧:順番でいうと実は『ULTRAMAN』よりも、『攻殻機動隊 SAC_2045 』のプロジェクトの方が先だったんです。元々、Production I.Gというスタジオで『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』は作られていたんですけど、社長の石川光久さんと、ある映画祭の食事会で一緒になった時にダメ元でフルCGで『攻殻機動隊』を作りましょうよ、と話をしたら、いい反応をいただけて。その時に「神山さんとやれたら、絶対に面白いものを作れますよ!」って話もしたら、「神山さんに聞いてみる!」と言ってくださって。神山さんに全然話を通してなかったんで、ダメって言われたらどうしようかと思いつつ(笑)。そういうところからスタートしました。その途中で『ULTRAMAN』の話も出てきたり。今のところはケンカもせずで良かったと思っています。

神山:ここ数年アニメーションが複雑になってきていて。これまでアニメーションは監督一人というのが当たり前でした、映画もね。でも今は、テクノロジーが進化して目配りしなきゃいけないところが増えてきていて、得意分野を分担するなど二人で監督するってむしろ理にかなってるなって思ったんですよ。荒牧さんが得意なCGの分野だったり、僕がやってきた2Dの部分だったり。二人分の目があると、目配りする範囲がすごく行き届く。むしろどんどん忙しくなりすぎちゃっているんだけど、二人で監督することで新しいやり方があるんじゃないかな、と。

荒牧:やりながら模索していった感じですね。

神山:二人で監督をするということですら技術革新なのかなって思うくらい、これまで監督っていうのは一人でするものだって常識があって。

神山健治
Photo by Takashi Togawa

——millennium paradeにも通じるところがありますか?

佐々木:そうですね。前作のミュージックビデオで作った「Plankton」っていう僕達の作品では、ストーリーの大まかな筋書きは僕が書いて、CGでどんな風に可視化させるかは神戸っちがあげて、それをもうちょっとこういうふうに見せた方がいいんじゃない? って話し合いながらディレクションしていました。

——『攻殻機動隊』は、社会状況とリンクしたストーリー展開というところで、 アニメーションの中でも、よりリアルなストーリーテリングがファンが深く物語へ入りこめるポイントとなっていると思います。今回、ストーリーはどのように考えられたんですか?

神山:僕の手法というか手つきなんだけど、大枠に社会と言ってます。良くないこととかこうなってくれるといいなってことを改良して出しているんです。今の世の中にある「これ、おかしいんじゃない?」とか「これ、古くなってきたよね」っていうことを1回作品の中で咀嚼して、じゃあこうしたら解決するかもねって。僕らは政治家でも技術者でもないから、それを具体的に解決することはしないけど、作品の中でシミュレーションしていくことがエンターテインメントにつながるんじゃないかな。観た人が違うように感じるか分からないんだけど、「社会とか疲れたよ」とか、「現実もう良くなっていかないじゃん」みたいな人達のために、もうちょっとファンタジーな要素、現実から切り離した部分を入れてみました。それは作品を観てもらって「全然ダメ」って言われるかもしれないし、「なるほど」と言われるかは分からない。そんなアプローチもできるんだねって注目してほしいです。

荒牧:社会の中のいろんな要素。「これはすごい進化してるけど、これはどうなってるんだろう?」とか、ちょっと古くなっちゃったものなど、ムラがあるように配列することで何か面白いことが起きるみたいなことを、よく話してますよね。あとは今後、世の中に起きる事象の兆しになりそうなことを見つけたりとか。「これは無理でしょ。俺達が生きてるうちには」 とか、あまり行き過ぎず……かといって、「来年こうなるよね」みたいなことはやらず。今は進化のスピードが速いので難しいんですけど、最初に話し始めてから4、5年経っちゃってるので、その間で「まずい、実際に起きちゃってる!」みたいなこともあって。未来を読もうとしても読みきれない。そこら辺は楽しみながら、取り入れていくしかないんですよね。

神山:そこはブラックボックスというか。ファンタジーでいいんじゃないっていう部分を入れながら。

——millennium paradeのメンバーは、まだ公開前ですが最新作を拝見されました?

常田:みんな公開まで楽しみにしようと言っていて。リアルタイムで観ながらワクワクしたいんですよ。

荒牧:それは、ありがたい心遣いですね。

神戸:この前公開された、プロモーション映像を観て、「いよいよ、ほんまやな!」ってテンションアガりました。アクションシーンの滑らかさというかダイナミックさにもアガりましたし。STAND ALONE COMPLEXの声優さんがやってくださっていたのもファンとしてアガったポイントでした。

——荒牧監督、3DCGによる演出について、いろいろなこだわりがあったのではないかと思うんですけどいかがですか?

荒牧:今回は、いわゆる日本のアニメが持ついいところを3Dにできないかを、みんなで調整し合いました。キャラクターの造作も含めて、模索しながら作っていきました。CGってなんでもできそうで、制限も多いんですよ。なかなか厄介な表現ですけど、ストーリーの段階から、その辺を相談しながら。もちろん、難しいけどあえてやってみようっていうところも多いです。ひとつひとつ神山さんと「ここは、今回諦めよう!」、「ここは今回やりたいから、なんとか乗り越えよう!」と 、表現の幅が広がればいいなと思いながらやっていきました。

神山:CGってあえて泥臭くいかないと、すぐ古くなっちゃうので。わざと泥臭さをどうやって入れていくかが悩むところなんです。スパイスとして等身をすごくリアルな人間に近づけているんです。パッと見は、それによって幼く見えるかもしれません。通常のアニメと比べると等身のサイズが縮むので。でも、CGのキャラクターって、みんなモデル体型で脚が長いわ、頭ちっちゃくてすらっとしてて……っていうのが、ドラマに乗せていくとストーリーが乗りきらないんですよね。キャラクターをちょっと泥臭くすることでドラマが乗るキャラクターになっていくというか。今回は割とそんなアプローチをスパイス・レベルでやってます。

——技術的なところで新しいチャレンジはありましたか?

神山:技術というと、CGもアニメーションの作り方の延長ではあるんです。

荒牧:モーションキャプチャでアクションシーンだけじゃなくて、ドラマのシーンも作ります。実際にスキルの高い役者さんに来てもらって、演技の空気感や芝居の密度感を演出しながら、その場でコントロールしていきました。この距離感では、そんなこと言わないよねとセリフを変えたり。 キャラクター的なことを現場で確認しながら芝居を揉んでいくというか。

神山:技術でいえば一番古臭いアナログな部分ですけど、アニメにはないライブ感というか。生っぽさって一番アニメにおいて取り入れるのが難しかったので、それはモーションキャプチャの恩恵ですね。デジタルですごい尖ったものを作っておきながら、意外とその根幹の部分は古臭い。

佐々木:物語とかを考えるときに、世の中の嫌なところだったり、本当に小さいところに対しての疑問点を突き詰めて考えるのが、僕も割りと好きなので。技術者じゃないけれど、 先にヴィジョンとして見せてあげることによって、必要性を提示するっていうのはすごい面白いなって思いました。

神山:知り合いのミュージシャンの方と話して、一番僕らが分からないし味わえないのが、やっぱりライブなんですよ。「ライブはライブをやったことがある人間にしか分からないんですよ」って言われて。今回、役者さんからダイレクトにセリフに対して、こんなアプローチしたいんだけどさ……と演出をブラッシュアップしていく瞬間が、これまで僕らの作業にはなかったライブ感みたいなものを感じられてすごく面白かったですね。

常田:面白いですね。

神山:音楽を作る人は魔法使いみたいな感じ。作曲家やミュージシャンの方に出会う度に聞くんですけど、音楽が生まれてくるっていうのが僕は分からなくて。どっちかっていうと理屈で構築していくタイプなので。そもそも曲を書けること自体が魔法に感じるんだけど、常田さんは?

常田:構成やら理論やらフォーマットが自由なようで、けっこうガチガチにあるので実は理屈なんですよ。

神山:最終的にお客さんにこういうエモーションを起こそうみたいなゴールから逆算するんですか? 湧いてきて、理屈で構築するんですか?

常田:昔は理屈で、この感じでやってる音楽家いなかったな……っていうのを先行して作ってたんです。他のミュージシャンと違うことをやらなければいけないっていうのが、今より強くあったので。最近は力が抜けてきて、エモーションを逆算していくような形になってきました。

神山:でも、ゴールのヴィジョンがありつつ……みたいな感じではある?

常田:そうですね。

神山:締め切りに追われてるということはなく、湧いてきてると思うんですけど……。

常田:いや、締め切り地獄です。今はもう追われ続けています。それこそ、『攻殻機動隊』は音楽がかっこいいイメージを持っていて。音楽とどう関わってきたんですか?

神山:いろいろですけど、僕らは作曲家に恵まれました。最初に僕が監督になった時に菅野よう子さんと初めてお仕事させていただいて。音楽のモンスター、菅野よう子さん。どんどん音楽が溢れてくるし、まったく想像していないようなところから飛んでくるし。凄すぎてお会いするのすら怖かったんですよ。僕、正直いうと音楽してる人に会う時……常田さんも怖いんだけど。

常田:本当ですか(笑)。

神山:いつも作曲家の方と会うときはドキドキしています。断られたらこの作品はダメなんだなって思うので。要は自分の曲を書くに値しないと思われるんじゃないかって。僕は音楽は詳しくないので、音楽の共通の話から盛り上がっていくみたいなアプローチができないんです。そうするとこちらの熱意を伝えるしかないんですよ。お願いのしかたとか、演出家目線として音楽がどういうふうに機能しているかに特化すればいいんだと、菅野よう子さんと仕事をした時に気づいたんです。そう思うことで、作り手とは違う音楽を浴びる側として必要としている音が聴こえるようになってきました。まずは作っていただいた曲と映像が入った曲っていうのは、もしかしたら聴こえ方は違うのかもしれないんだけど、最終的には映像と一緒になってお客さんに届いたときにこう受け止めてほしいんだよなっていうのを足している感じですね。なので、音楽を演出するという耳を自分なりに育てたというか。それが僕の音楽との関わり方ですかね。

荒牧:音楽の専門用語とか使っても全然ね。

神山:むしろ恥をかくくらい。最初の打ち合わせの時に見せていただいた映像とか、僕らからみても驚くくらいかっこいいものを作られていて、おそらくそれって情熱じゃないですか。暑苦しい言い方をすれば情熱そのもので。「やべ、こっちの方がいいかも」って(笑) 。

荒牧:常田さんがまず曲だけを作って、ということではないんですよね? その辺はけっこう融合してやっている?

常田:普通のチームよりは、同じチーム内にいろんなヤツがいるので密にやりとりができる関係ではありますね。

荒牧:先に映像のイメージがあって曲を作ることもあるんですか?

常田:全然ありますね。

常田大希
Photo by Takashi Togawa

——「Fly with me」が生まれたきっかけは?

常田:実は俺が作る曲の中でも、『攻殻機動隊』に近いようなものは他にもけっこうあって。今回、劇伴まではやってませんけど。菅野よう子さん、コーネリアスという流れできた主題歌とは全く違う、新しさをより意識した曲になったというか。今までの『攻殻機動隊』で流れてきた曲や主題歌とはあえてすごくハズしてる曲かもしれません。

——イントロの生のオーケストラがバイオレンスかつエレガントでセクシーですよね。

常田:そうですね。パンチを打つの好きなんで。それも今までの『攻殻機動隊』ファンからしたらサプライズな要素になるかもしれないな。

millennium paradeのライブで成長していった曲でもあると思うのですが、佐々木さんと神戸さんにとってどのような曲でしょうか?

佐々木:当初「Fly with me」という曲は、もっと攻撃的というか。もう少しバイオレンスな要素が強くてよりヒップホップ的だったんです。今回、あらためて新しく作り直したというか、ブラッシュアップを重ねたものを聴いた時に、もう少し間口を広めたではないですけど。日本カルチャーの音楽的な要素を増やしたというか、面白いバランスで作れたような印象がありますね。

神戸:そう、間口がすごく広がった印象があって。それにMVのアイデアだったり、ライブで今まで演出で使っていた内容も変えようという話になったり。僕らが作る映像の方向性もちょっとずつ変わっていった曲ですね。たしかに、成長し続けてきた曲です。

佐々木:ブラッシュアップして圧倒的にかっこいい曲だなって思ったし、すごい生命力を感じられた。人間の強い芯の部分がめちゃくちゃ宿ったような気がしていてかっこいいと思ったし、心が震えるし。大切な曲になったなって。

神戸:millennium paradeにとってのmillennium paradeたるやっていう、そんな曲を作るみたいな話をちらっとしていて。その原曲となったのがこの「Fly with me」です。ライブの1曲目でこれをかましたときに出るチームの一体感みたいな部分。各々が楽しんで個々のプレイをしているようですが、ある基点のタイミングでひとつの方向性に向かうんです。 そのタイミングでのステージ上の光景は、お客さんからしてもアガる。盛りあがるって言うのは簡単ですけど、こんな楽しそうにやってるんだっていう場面なんですよね。「Fly with me」はmillennium paradeとしても思い入れのある曲なんです。

荒牧:実は「Fly with me」のデモを聴いたとき、最初はちょっと戸惑ったんですけど、だんだんこっちだなっていうふうに思えてきて。

常田:最初は戸惑いますよね(笑)。デモは2、3曲提出したのかな。それこそ女性が歌う美しい方向性のものと、もう一個ゴリゴリの曲とか数曲出したんですけど、最後はどんでん返しでゴリゴリになったみたいな感じで。

荒牧:一番『攻殻機動隊』らしくないといえば、らしくない。

常田:そうですね。らしくない方なんだって驚いて(笑)。

神山:でも、きっと自信作なんだろうなって。自信作を借りようよって思ったんです。

常田:だから俺らも湧いたんすよ。

佐々木:「Fly with me」やぞ。最高じゃんって。

常田:みなさんに観てもらえるのが、すごい楽しみですね。だから本当にNetflix、イントロスキップするなよって。

一同:(爆笑)

神山:「Fly with me」を聴くために、観たくなるんじゃないかな。

常田:それくらい最初からトップスピードでパンチある曲なんで大丈夫でしょう。

神戸雄平
Photo by Takashi Togawa

——millennium paradeの他のメンバーの方々って、どういうお話をされたんですか?

常田:『攻殻機動隊』を好きなメンバーが俺ら周りって超多いんで。たぶん人生イチ、身内が喜ぶ仕事ですね。

神戸:自分の中にあるカルチャーの良し悪し的なものの基準ってあるじゃない? それの根源的なところに『攻殻機動隊』ってずっとあったから。

常田:仕事でそこへリンクできるって意外と少ないじゃん。

佐々木:このリンクした感じはすごい良かったね。

——millennium paradeのメンバーとか、みんなキャラクターとして作品に出ていそうですもんね。

佐々木:PERIMETRONというチームをやってるんですけど、チームの個性が11人みんなバラバラなんですよ。個の集団って言ってるんですけど。

神山:まさに “STAND ALONE COMPLEX” ってことだ。

神戸:そうなんですよ!

——Netflixだと世界中から期待が届いてると思うんですが、手ごたえはいかがですか?

神山:Netflixで世界配信っていうと身構えるんですけど、時間をかけてじっくり作らせていただいてるので早く観てもらいたいなって気持ちになってきていますね。

荒牧:観てもらうために作ってるので。配信したらすぐ観てって気分です。とにかくたくさんの人に観てもらいたいし、どんな意見でもいいから反応が欲しいという感じです。

——millennium paradeとしても、グローバルに世界へ発信ってとても大きなことですよね。

常田:その通りです。

佐々木:今までより全然比にならないくらい反響が起きると思うので、今後の僕らの活動としても楽しみですね。音楽的にも映像的にも。

佐々木集
Photo by Takashi Togawa

——神山さん、荒牧さんはARやMR的な魅せ方だったり、銃や兵器など細かい見どころがあると思うのですが、そういった面で注目するところはどこでしょう。

神山:セルアニメとも違うので、 キャラクターの実在感があると思うんですよ。最初の『STAND ALONE COMPLEX』を作った時よりも、現実の中にAIやバーチャルリアリティーが身近になってきて、より物語と現実が近くなった部分があるので、SF表現としてはハードルがあがったなと思うんですけど。逆に身近になった分、技術が進んでヘッドセットとか付けていなくてもARだったらこういうふうに見えるんだろうなっていう表現は、さらに違和感がなくなってきたんじゃないかなと。あとは街中などで実際にね、ARで表現されるものって現実でも増えていくだろうけど、それが東京の街に現れたとしたらこういう感じに見えるんじゃないか、ということもやってるので。

荒牧:以前は“電脳”という一括りの大きなテクノロジーとして提供していたものを「そのうちこうなりそうだよね!」とか「こういうネガティブな部分もあるよね!」ってより身近に具体的に描いてるところがたくさん出てくるので、そこを楽しんでほしいですね。

——以上となりますが、今日、お話ししてみていかがでしたか?

常田:俺たち周り(クリエイター)が、(『攻殻機動隊』シリーズを)好きだっていう理由が分かるっていうか。

佐々木:それすごい思った。

常田:大先輩ですが、すごい共通する人種の方達だって思えたことが嬉しかったです。

神山:僕らが若かった頃とあまり違わないって言ったら失礼かもしれないですけど、同じようなことを考えてるというか。若いのにそういうことも考えてるのねっていうことも話せて良かった。まだちょびっとですけどね。

常田:はい、この続きは別の場所でぜひ。

Photo by Takashi Togawa

KENJI KAMIYAMA

85年にスタジオ風雅へ入社後、美術・背景スタッフとしてキャリアをスタート。『人狼 JIN-ROH』(演出/2000年)、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(脚本/2000年)等を経て、『ミニパト』(2002年)にて初監督。その後、TVアニメ『攻殻機動隊S.A.C.』シリーズ(20022005年)で監督およびシリーズ構成を務め大ヒットを記録。2018年からは荒牧伸志と共同監督でフル3DCGアニメに携わり、2019年の『ULTRAMAN』は同年Netflixで最も視聴されたアニメ作品となる。20204月には『攻殻機動隊 SAC_2045』をNetflixにて全世界配信予定。その他の代表作は、『精霊の守り人』『東のエデン』『ひるね姫~知らないワタシの物語~』など。

 

SHINJI ARAMAKI

多くのCG作品を手掛け、日本におけるフル3DCGアニメーションの第一人者。メカニックデザインを中心に活躍していたが、2004年に監督を務めた『APPLESEED』は世界中のクリエイターに大きな影響を与えた。2018年からは神山健治と共同監督でフル3DCGアニメに携わり、2019年の『ULTRAMAN』は同年Netflixで最も視聴されたアニメ作品となる。20204月には『攻殻機動隊 SAC_2045』をNetflixにて全世界配信予定。その他の代表作は、『スターシップ・トゥルーパーズ レッドプラネッ ト』『アップルシード アルファ』『キャプテンハーロック』など。

 

DAIKI TSUNETA

King Gnumillennium paradePERIMETRONの中心人物。あらゆるカルチャーを呑み込み、すべてのプロジェクトにおいてプロデ ュース、コンポーザーを務める。東京藝術大学に在学し、小澤征爾主催の国際室内楽アカデミーにチェロ奏者としても在籍。本格的に西洋音楽を学んだのち、SXSW2017FUJI ROCK FESTIVALGREEN ROOM FESTIVALMUTEKなど国内外多数のフェスに出演し頭角を現わす。個人名義でも、映画やドラマの音楽監督や、adidasNew Balance × CHARI&COBEAMSNuméro TOKYO × Emporio Armaniなどファッションフィルムへの楽曲提供。アメリカ版Pokémon、血界戦線といったアニメーション作品への参加。N. HOOLY WOODNYコレクションなどファッションショーへの音楽提供など活動は多岐に渡る。

 

PERIMETRON(佐々木集・神戸雄平/SHU SASAKIYUHEI KANBE

音楽家・常田大希、プロデューサー/デザイナー/クリエイティブディレクター・佐々木集、映像作家・OSRINを中心に、2016年より本格的にクリエイティブレーベルとしての活動を開始。デジタルアーティスト・神戸雄平らを含むクリエイター陣が集い、様々なアーティストのMVからadidasMIHARA YASUHIRO等のブランドCMやファッションフィルムを制作。映像ディレクションの他、 ジャケットアートワーク、プロダクトデザイン、スペースデザイン、雑誌でのグラフィック連載などジャンルに縛られない多方面な創作活動を行い、現在、東京で最も刺激的でカッティングエッジなクリエイションを生み出す存在として、急速に注目を集めている。

 

HIGHSNOBIETY ISSUE04 限定版の表紙は、『攻殻機動隊』シリーズ最新作『攻殻機動隊 SAC_2045』から、登場キャラクターの多脚型の思考戦車・タチコマと常田が奇跡のコラボレーション。PERIMETRONがデザイン制作を担当し、裏表紙には彼らがHIGHSNOBIETYに向け制作したオリジナルグラフィックを採用。

限定版カバー
限定版カバー(裏表紙)
通常版カバー

 

Creative Director: Shu Sasaki/Art Director: Cota Mori/Digital Artist: Yuhei Kanbe

攻殻機動隊 SAC_2045 オープニングテーマ
「Fly with me」配信中 

CDシングル:5月23日(土)発売
※CDは常田大希×神山健治監督×荒牧伸志監督×佐々木集(PERIMETRON)×神戸雄平(PERIMETRON)によるトークセッションを収録したDVD付き