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Where the runway meets the street

サッカー発祥の地であるイングランドの名門、リヴァプールFCにおいて第一線で活躍する南野拓実。

伝統と刷新を繰り返しながら常に熱狂の渦にあるスポーツ界において、妬けつくほどの野心を秘めた南野は何を信じ、貫くことを選ぶのか。

 

 シーズン・オフ中に行われた代表戦のために帰国していた南野拓実。端正な佇まいで、ゴール際ではときにアグレッシブに洗練されたプレイでフィールドを沸かすトッププレイヤー。10番を背負い日本代表に点を授ける南野は、見慣れたユニフォームを脱ぎ、スタジオに並んだ洋服に袖を通しながらはにかんだ表情を見せる。

 201912月、南野の移籍が決定したのは、プレミアリーグ201920の真っ最中だった。シーズンが始まるやいなやダントツ1位を爆走し、猛スピードで優勝を遂げたリヴァプールFC。勢いに乗る名門への移籍は多くのサッカーファンの度肝を抜いた。欧州で活躍する日本人選手は多いが、サッカーの母国イングランドを本拠地にできるチャンスはそう多くはない。

 1995年生まれの南野少年がサッカーを始めたのは3つ年上の兄の影響だ。「とにかく兄貴と大好きなサッカーで遊びたい」と夢中になり4歳児の頃からスクールに所属。小学6年生でプロの下部組織からジュニアユース入りのオファーが来ると、プロサッカー選手に対する具体的なヴィジョンを描くようになった。リオネル・メッシ(Lionel Messi)やダビド・ビジャ(David Villa)の髪型を真似ながら、親に言われたサッカーノートを綴り、目標意識の維持やイメージトレーニングで対応力を身につけた。誰にも負けなかったのは「負けたくない」という思いの強さだったと振り返る。

「次男特有の負けず嫌いというか。自分より強い選手に負けたくないし、食らいついていくメンタリティは、幼い頃から人一倍あったかなとは思います」

 ジュニアユース時代には日本クラブユース選手権で得点王、ユース時代も得点を重ね、17歳でトップチームとの2種登録選手となり、プロデビュー。18歳でトップチームに昇格すると、クラブの最年少得点記録を更新するなどその逸材ぶりを発揮。しかしプロ2年目はチームも自分もうまくいかず、シーズンで2度の一発レッドカードをもらうなど、つらい時期も経験した。プロで活躍できるという自信、もっと上の選手になれると勢を増すなか、立て直しのすべを知らなかった19歳の南野は、「負の連鎖からなかなか抜けられなかった」と思い返す。3年後、オーストリアのレッドブル・ザルツブルクに移籍するも、思うように結果を出すことができない日々が続く。反骨の5年間、常に持ち続けたのは、絶対にヨーロッパに自分を認めさせるという強い思い。「自分はもっとできる」と信じて日々の練習に取り組み、現在の地位を勝ち取った。

※18歳以下で構成される日本サッカー協会第二種チームに所属しながら、第一種(トップ)チームに登録された選手

「(反骨心や負けず嫌いを)コントロールできなきゃいけないと子供の頃からなんとなく思ってここまで来たんですが、今周りにいるトップレベルの選手は全員、その気持ちが、今までどんなやつにも負けてこなかったんだろうな、と思わせる選手ばかり。根本的な、相手に勝ちたいっていう気持ちをズバ抜けて強く持っている。海外の選手は強い言葉、激しい言葉も使いますが、それがいいとか悪いとかではなく、トップレベルの世界において自己主張は絶対に必要。それは海外に来てより強く感じています」

 

<英国の伝統と誇り高き美学に敬意を評して>

 イギリス生まれのキム・ジョーンズ(Kim Jones)は、歴史をさかのぼり、文化を融合させることで新しいデザインを導き出す。DIOR(ディオール)MEN 2021-22 ウィンターコレクションでは、帰属意識を象徴するかのような詰め襟のルックを主体としながら、軽やかなイエローやPeter Doig(ピーター・ドイグ)のペインティングをモチーフにした柄が楽しげにリズムをはじく。ALEXANDER McQUEEN(アレキサンダー・マックイーン)が繰り広げるミニマルなスーツスタイルと絢爛なディテールを、南野はその磨き上げられた体をもって饒舌に表現する。

かつて、遠き日本から移籍した選手のために練習フィールドへの通訳者の立ち入りを義務化し、選手のパフォーマンスを最大限に引き出すことに成功した監督がいた。許されなかったそれまでの慣習を覆したのは名将ユルゲン・クロップ(Jürgen  Klopp)現リヴァプールFCの監督だ。監督自身、リヴァプールFC監督就任に向けてそれまでの荒っぽい性格や外見を整えた。「全てのサッカー少年にとってイングランドは特別なもの」だから。

「クロップ監督は一人ひとりの選手の性格に応じて、自分から話をしに行かない選手に対しては自らやってきて、気持ちを引き出したりするんです。試合に出られなくて難しい時期を過ごしている選手たちにも、練習後に「いいプレイしてたぞ」とか「常に見ているからそれを続ければチャンスは絶対あるから」と声をかける。監督の決定で試合に出てないわけですから彼らに対して監督としては声をかけづらいはずですが、なぜそういう決定を下したのかをちゃんと選手に説明する。そこをオープンにするからこそ、選手は試合に出られなくても受け入れられる部分はある。そこは他の監督とは違いますね。抜くところは抜くタイプですし……多少演じている部分もあるとは思うんですけど、そのようなパフォーマンスはマネージメントの一部でもありますから、ジョゼ・モウリーニョ(José Mourinho)監督もそうですけれど名将って言われる人は名役者みたいなところもありますよね」

<ヨーロッパで戦うアジア人選手としての様々な責任>

日本代表としてチームの主力としてこれまでも活躍してきた南野。身体的・精神的なタフネスを身につける海外で活躍する最強の選手たちが一堂に会する日本代表としての責任は格別だ。

「やっぱり違う重みがありますね。自分の家族だけだったのがいつの間にかいろんな人が応援してくれるようになって、日本代表になると日本中のサポーターやファンが応援してくれている。そして、自分が夢を与えられてきたように、今度は僕がサッカー少年たちに与えないといけないという責任がある。そういうものを感じて試合前に国歌を聴くと込み上げてくるものがあります。チームメイトはそんな選手たちばかりですから、特別な気持ちが湧き出てきます」

「自分のために結果を出したいと思うこと?もちろんあります。でも日本代表としてプレイする以上、代表としての責任がある限り自己中心的になりすぎてはいけないと思うんですよね。それって代表の選手として本当の姿なのかって思うし、それだと勝てないです」

 

 BLACK LIVES MATTER(ブラック・ライブズ・マター)やヘイトクライム、ジェンダー格差にまつわる様々な事象に端を発し、個人の発言力の拡大が輪をかけるようにして、ここのところ急速に社会規範が変わりつつある。オーストリアと英国での生活をはじめ欧州の様々なエリアを見てきた南野にとって、国同士が隣接するヨーロッパでの多様な文化や人種が入り交じる生活でどのようなことを感じていたのだろうか。

「あの出来事をきっかけにBLM運動が始まった時に、僕も普段から移民として海外で生活している立場だったので、差別されることに対して嫌な気持ちとか自分の大切な人にそういうことが起こってほしくないという気持ちはありました。僕の場合はアジア人差別ですけど、黒人・白人だけではなくて、例えば旧ユーゴスラビアの戦争で国が分裂してしまった人達だとか、クロアチアとセルビアの人達のことだとか、ヨーロッパでも人種差別や紛争とかいろいろなことがある。インスタグラムへのBLM投稿は、チームとしてみんなで相談して投稿しました。それで何か変わるのであれば、何か行動は起こしたいなとは思っていましたから。

(ナショナル・ウーマンズ・サッカーリーグで活躍するアメリカ人選手)ミーガン・ラピノー(Megan Rapinoe)選手やプロテニスプレイヤーの大坂なおみ選手をはじめとした、アクションをしている選手達に対しては、本当にすごいと思います。大抵の人達は自分が発信することで『雑音』が大きくなるのであれば、最初からやらずに競技に集中したいと考えるんじゃないでしょうか。それも理解した上で、本当に世界を変えようという気持ちでやられている。彼女たちの行動はスポーツ選手としての枠を超えているように僕は感じます」

 ヨーロッパではプレイがうまくいかないとサポーターに「中国に帰れ!」と言われたり、アウェーで「お前に何ができるんだ」と言われたりする。レフェリーにすら差別発言をされ、ドイツ語でチームメイトが抗議してくれたこともあったという。スポーツの世界では勝利こそが最大の美徳であり、そこにこぼれ落ちる様々な盲点や違和感が構造的に排除されていることも少なくないようだ。あがめ奉られるマチズモ(男性優位主義)や潜在的差別に対して、やりにくさを感じることなどはないのだろうか?

「自分が夢を与えられてきたように今度は僕がサッカー少年たちに与えないと」

「サッカーの長い歴史の中で今まで日本が強豪国ではなかったのは事実であって、日本の選手に対する期待値がさほど大きくないのは仕方のないことだと思うんですよね。でも、結果を出せば特にサポーターはすぐに手のひらを返しますし、評価もすぐについてくる。彼らの期待をどれだけ良い結果で覆せるのかは自分次第だと思っています」

 

 撮影は、静かに進んでいく。ごく自然に、ありのままと多少の機微を事もなげに映し出しながらこなしていく姿はプロのモデルさながらだ。完全にアウェーの状況で丁寧に取り組む姿勢をとっても、真摯に立ち向かうことの重要性を知っている。彼の目が純粋であるほどに、その重みを実感する。

「中途半端に恥ずかしがりながら撮影するよりは、自分がかっこいいと思うことをやってプロの人に修正してもらえばいいと思ったので、100%やりきらないとな、とは思いました。やろうって思って切り替えられるところは普通の人よりはあると思うので」

 1秒以下の判断で全てが変わるフィールドではもちろん、彼のプレイスタイルを見るとその闘志は秘められた炎のように静かで落ち着いている。そこには猛々しくも切ないほどに一途な南野の本質が隠れている。活動の場が外国であるからといって、他の外国人のような立ち居振る舞いをすることは選ばない。

「自分の生まれ育った環境でこうなっている『俺は俺やから』っていうだけ」

「彼らには彼らのプレイがあるし、自分は日本人としての感じ方とかプレイの良さがある。例えば、外国人より俊敏に動けることとかボールを細かくタッチしてドリブルできるとか、そういう強さで勝負してきているし、これからもそう。自分の生まれ育った環境でこうなっているので『俺は俺やから』っていうだけ。そういう気持ちは海外で生活する上で大事かなって思います。自分自身を貫くことですよね」

「海外では、自分が日本代表に入っていても入っていなくても、そのチームでは自分が日本代表なんだと思ってプレイしています。そこで結果を出すことは、そこでの日本人の評価になりますから。今後サッカー少年たちが海外を目指すのであればそういう気持ちを持ってほしいですね。ヨーロッパに移籍するとたいてい日本人は舐められてしまいますが、それを裏切ることができたときは気持ちがいいですから」

タイトル:HIGHSNOBIETY JAPAN ISSUE07:TAKUMI MINAMINO
発売日: 2021年9月30日(木)
価格:1,650円(税込)
仕様:A4 変形版
※表紙・裏表紙以外の内容は全て同様になります。JO1のみ小冊子付きでの販売となります。

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