style
Where the runway meets the street

Highsnobiety / Eva Al Desnudo

パリのメンズファッションショー会場から出てくる人達は、次のシーズンへのヒントを与えてくれる。今回パリでもファッショニスタを多く見かけたが、その中でもCELINE(セリーヌ)のグリーンのバッグを持ったフランク・オーシャン(Frank Ocean)が注目を集めた。Louis Vuitton(ルイ・ヴィトン)のコレクション会場の外でスナップされたアウトフィットは、CELINEの前デザイナーであるフィービー・ファイロ(Phoebe Philo)デザインのツヤのあるレザーバッグに、対照的なシンガースタイルのオレンジのダウンジャケットや、ジーンズ、ビーニーを合わせていた。

このスナップからメンズファッションにおけるバッグの合わせ方に変化が見て取れる。女性のように繕う必要はなく、元来のウィメンズファッションに見る大きめのアクセサリーなどで着飾る必要もない。最近の風潮としてメンズにおけるバッグとは、以前はタブーと考えられていたものがトレンドになってきている。実際、業界もこの流れには乗り気である。

ミラノではFENDI(フェンディ)が、バゲットとピーカブーというブランドのアイコンバッグをメンズ用として発表し、PORTER(ポーター)とのコラボレーションも行った。レッド、ブルー、シャンパンカラーのナイロンで作られたショルダーバッグとハンドバッグをミックスさせたハイブリッドなモデル、バゲットは完売必須のアイテムとなるだろう。

キム・ジョーンズ(Kim Jones)がパリで発表したDIOR(ディオール)のコレクションでも、ほとんどのルックに様々な種類のバッグを合わせていた。シルキーナイロン製のサドルバッグや、ネックウォレット、細い紐とハードケースのショルダーバッグ、ソフトファーのバッグや、控えめな見た目のMatthew Williams(マシュー・ウィリアムズ)がデザインしたバックル付きのメッセンジャーバッグなどが揃う。

PRADA(プラダ)には王道のナイロン製のブラックのバックパックが、LOEWE(ロエベ)にはツヤのあるクロコダイルのクラッチバックや、レザーの大きめのトートバッグ、同ブランドで人気を博している様々な形や色のパズルバッグがある。

2019年秋冬のコレクションで多くのラグジュアリーブランドが、メンズの新たなイットバッグをアップデートしたが、ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)と同様にそうしないブランドもあった。Louis Vuittonでは1年も経っていないものの、多種多様なキーポルバッグを発表している。暗闇で光るものやレインボーカラー、中が透けたネオンピンク、イエロー、淡いグレーなどの色や、ダウンジャケットの素材に同ブランドのモノグラムを使うなど様々なアイテムを生み出した。今季は、ブランドのシグネチャーモデルであるトランクバッグのミニバージョンが、ハンドバッグのようなかたちで登場している。

これまでの男とバッグの関係は複雑である。検索すると、「男がバッグを持つのってどうなの」や、「男がハンドバッグを持っているのを許容できるか」、「どうやってバッグを合わせるか」、「男はバッグに何を入れるの」などの不安を募らせる質問を目にするだろう。過去には、バックパックやブリーフケースの使用を許されたものの、それ以外は許容されず、男性的な凝り固まった考え方で服のポケットに必需品を入れなければならないということに苦しんでいた。実際は、メンズバッグにおける論争は、無駄な取り組みであった。

数年前から、そういった姿勢は変化を見せ始めた。人から人へとストリートウェアの人気が飛び火し、90年代ファッションの波と共に広がりを見せ、メンズウェアの代表的なバッグとして、新たにサイドバッグやショルダーバッグが登場した。その理由は、シンプルで使いやすいデザインと機能性が組み合わさっていたからというのは言うまでもない。

アウトドアとスケートブランドの圧倒的な成功が、おそらく数年前に起きた変化のきっかけだったのだろう。Patagonia(パタゴニア)やTHE NORTH FACE(ザ ノース フェイス)、Supreme(シュプリーム)、Palace Skateboards(パレス)などがそれに当たる。このような成功はメンズウェアや、ストリートウェアの世界においてのバッグが、『Sex and the City』世代の女性にとってのHermès(エルメス)のバーキンのように、お洒落と憧れの証であると証明した。

サイドバッグは、男性的なワークウェアやミリタリーデザインの人気と共に流行し始めた。1017 ALYX 9SM(1017 アリクス 9SM)のチェストリグや、ハーネス、ベルトバッグなどが代表的である。そういったアイテムはフェティシュ(性癖)や、スポーツウェアのリラックスしたシルエットの一つの要素としてしばしば用いられる。

しかしながら、今シーズン我々が目の当たりにしたものは大きく異なるものだった。以前のメンズのバッグといえば、風変わりな生地を用いたり、左手が塞がったりなどほとんどしないようなものが好まれていたが、今我々がここで述べているのは、ウィメンズのように手が塞がるハンドバッグや、ショルダーバッグである。フランク・オーシャンのCELINEのトートバッグで我々が目撃したように、ウィメンズのバッグやハンドバッグは、メンズのワードローブの中でも受け入れられるようになっている。

「私は、ガーリーなスタイルをする男性がいるなんて信じられないし、正直嬉しくはない。私たちは、面白い時間を過ごしている」とフォトグラファーのモルデハイ・ルビンシュタイン(Mordechai Rubinstein)が自身のインスタグラムの中で投稿していた。また、「少し前に私はLouis Vuittonのウィメンズ用のハンドバッグを手にした男の写真を投稿した。彼は、古いバッグからストラップを取り、それをお母さんのバッグと合わせていた」と発言した。

現代のファッションを表現する上で、大きな力を持つヒップホップのカルチャーは、この流行のきっかけとして不可欠である。タイラー・ザ・クリエイター(Tyler, the Creator)は2年間、CHANEL(シャネル)のクラシックなハンドバッグを使っていた。このようなフェミニンなアイテムの着用は、エイサップ・ロッキー(A$AP Rocky)が着用するGUCCI(グッチ)のバブーシュカスタイルのスカーフ、ヤング・サグ(Young Thug)のフリル付きシャツなど、現在のヒップホップシーンではファッションにおけるジェンダーの垣根を変化させる実験的取り組みとして広がっている。

ヒップホップカルチャーは、ラグジュアリーファッションとの深い関わりの中で、男性の嫌な特質を変える挑戦を行ってきた。もしラッパーがCHANELのハンドバッグを手にぶら下げていたなら、それはストリートの終焉が近いことを意味する。

同時に、イットバッグがメンズで人気を博したのは、単純にビジネスでもある。ラグジュアリーブランドにとっては、バッグは利益がもっとも見込める商品の一つである。単純計算して男性がバッグを購入すれば、購入したバッグ2個分の売り上げが出るほど利益率が良い。ストリートウェアにおけるジェンダーレス化でますます変化を遂げる消費行動により、アクセサリーに関して、若い世代はより性別を気にせず選ぶことができている。

ブランドは、変化したラグジュアリーブランドの意味を知ろうと試行錯誤している。ラグジュアリーファッションの性別における差は曖昧になっているが、それはまたウィメンズからメンズと繰り返しアイコニックなアイテムが変化することが、興味深いことであるということも意味している。

昨年、ウィメンズファッションのアイコニックなアイテムであるハンドバッグの代わりとして、スニーカーが定番になったという話をした。入手困難なスニーカーは、ALEXANDER WANG(アレキサンダー ワン)のバッグ以上の価値があるように見えるだろう。逆のことがメンズで起こると考えても不思議ではない。

先が見えないこの世界において、ラグジュアリーファッションは変化する。新たなものが出てきたかと思えば、CHANELのクラシックなハンドバッグのようなアーカイブが復刻され、そこで新たなトレンドとなる時もある。今大切なことは、そのトレンドをどう名付けるかである。