life
Life beyond style

Ya'eesh Collins for Musa Nyangiwe

スマートフォンやパソコンの画面から見ると、誰もが羨むようなライフスタイルを過ごしているかのようなブロガーやインフルエンサー達。だが実際は、良い面だけではないのかもしれない。南アフリカ出身のムサ・ニャンガイエ(Musa Nyangiwe)は元インフルエンサーであり、ファッションを愛していた内の一人だ。しかし、なぜ魅惑的な世界から身を引き、多くの人が羨む職業を辞めたのだろうか。

以下は、ムサ・ニャンガイエが本国版「Highsnobiety」にて綴った自身の経験である。

まずここに書かれている全ては、僕が南アフリカのファッション業界で働いた中での個人的な体験に基づいているということ。僕は決して、スタイルブロガーやインフルエンサーを目指している人を制するつもりはない。けれど、華やかな部分以外を明るみにするのも重要だと思うんだ。

僕はまだ高校生だった頃、自身のスタイルやファッションに対する考えを記録し始めた。本当の目的が何か分からず、常にアウトサイダーのように感じていたけれど、ブログをきっかけに変化し始めた。ブログ名を決めて、安っぽいウェブサイトの中で、投稿を始めた。

たちまち有名になり、僕が住んでいるケープタウンの才能ある若いクリエイターや、地元ブランド、インターナショナルブランドとコラボレーションが出来るプラットフォームを作り上げる事ができた。国内のファッションウィークでは、いつもフロントロウに座っていたし、煌びやかなプレスイベントに参加したり、たくさん洋服も貰ったりもした。

まるで夢のようだった。

Highsnobiety / Ya’eesh Collins

しかし真実はというと、その天国のような恩恵には代償がついてくるということだった。

ファッションショーやプレスイベント、ローンチイベントへ参加するには、それに伴う移動費や着ていく服への出費がかさんだ。それにプロのインフルエンサーとして、自身をプロモーションするためのコンテンツを作るのにも資金が必要だった。これら全てが問題だった。シンプルに一切の資金援助がなかったということだ。

ブランドのインフルエンサーとして、実際に様々な決断がされる場所に僕は呼ばれていなかった。コンセプトは勿論、キャスティングやプロダクション、そして僕の報酬に関してもだ。ブランドから説明を受け、出来る限りの手を尽くしたけれど、この仕事は終わりへと差し掛かっていた。僕は選ばれた商品が何であれ、とりあえず、いかなるリソースを駆使してプロモーションをしなければならなかった。

誰もが「なぜ支払いを求めなかったのか」と簡単に聞くだろう。けれど、キャンペーンに出ないかと誘われた時、僕の脳裏に浮かんだのは、「彼らはお金を払う必要がないという理由で選んだのだろう」という考えだった。それでも繰り返しお願いはしたが、予算が無いだとか、クーポン券で納得せざるを得なかった。どちらにしろ、雑誌に掲載され、自分が好きなブランドのキャンペーンの顔に誰もがなりたいだろう。断るのは非常に困難だった。

Highsnobiety / Ya’eesh Collins

「強く要求しなかった自分の責任だ」と言う人はたくさんいるけれど、物事はそんなに簡単ではなかったんだ。自分の夢がすぐそこまで来ている時は、「時間が解決してくれる」と自身に言い聞かせてしまうものだ。僕は家族からのサポートともあり、仕事に一生懸命に注力してきてからは、遂に少しばかりの金銭的報酬は貰えるようになった。

しかし、年月が過ぎるばかりで、それ以上のお金はやってこなかった。それからは「僕はそれに見合う程ではない」と感じるようになった。これ以上自分のクリエイティビティを成長させることも出来なかったし、業界で自分の居場所を見つけることも出来なくなった。価値がある人間であった筈なのに、自分のポジションを脅かす人が現れたらどうしようと毎日が怖くなった。もしこれが現実になり、取り残されたならどうしようと。それに、自身の作品と言えるような重要なモノはポートフォリオに何一つなかった。

Highsnobiety / Ya’eesh Collins

一番悲しかったのは、恐らく自分が費やしてきたその時間だろう。最終的にはウェブサイトを閉鎖し、一時でも自分を幸せな気持ちにしてくれていたモノに別れを告げた。これまでで一番タフな決断だったけれど、精神的な健康を考えるとベストな決定だった。

ファッションに対する情熱を再発見するには、とても長い時間がかかっている。だけれど、その感覚を取り戻しつつある。今は『UNRULY』というオンラインプラットフォームを運営していて、お金と権利を直接委ね、僕が経験したような問題に取り組むよう促している。

この業界が個人を食い物にするとは思わないけれど、システムを変える事は簡単に出来るはずだ。僕も他の大多数の人と同じで、ファッション界のエリート集団達に認められたという錯覚に誘惑された。話題のウェブサイトに特集されたり、洋服をもらえたり、インスタで人目を引く写真に写れたり。

しかし、お金がかかるばかりで、誰も提案に耳を傾けていないのが現実である。イベント会場でカクテルをただ飲み続ければいい。飽きられるまでね。それだけで満足する人も中にはいるだろう。そして僕もそうだった。けれど、今は違う。