シニアファッションの知恵を受け継ぐ
クワイエットラグジュアリーが平凡になり、ノームコアが「ベーシックな服」という意味に希釈される以前、シニア達と彼らのファッションに対する意欲的なアプローチが存在した。
今のシニア世代は、本当に、本当によく着こなしている。皮肉ではなく、いつも彼らのスタイルに魅了され、その文化が今ようやく浸透し始めたように感じる。
4月中旬、女優のリリー・ジェームズ(Lily James)がスリラー映画『Relay』の撮影中に着ていた衣装を見て、ますますそう思った。最小限のメイク、トレンチコート、控えめなVネックのニット、流れるようなスラックス。これこそ、ザ・ステルス富豪のワンシーンだ。
しかし、よく見てみると、それは間違いだったことに気づく。折り畳まれた新聞、機能性ハイキングスニーカー。実は、ジェームズがシニア達のワードローブに影響を装っているのだ。
それを否定的に捉えているわけではない。彼女はすごく素敵に着こなしているし、非常に真似しやすいスタイルだ。
なぜ私達は、シニアが驚くほどお洒落であることを認めないのだろう、と考えさせられた。そして、なぜ彼らの服装は、現在のファッションの時代精神とうまく調和しているのだろうか?
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全ての基本は服装から始まる。
一般論ではあるが、要するに、シニア達は誰かのためではなく、何十年もかけて培った経験をもとに、自分のために服を着る。もちろん、快適さも追求している。
大きなトップス、イージーパンツ、クッション性のある靴。生意気な若僧が靴を買い始めるずっと前から、ASICS(アシックス)のウォーキングシューズやNew Balance(ニューバランス)の992を履いていたのは誰だろうか? “ダッドシューズ” と呼ばれる理由は、こういうことだろう。
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我々は彼らが何を着ているかを見るために、@gramparentsのようなアカウントに注目しているわけではない。どのように着ているか、が重要なのだ。
BEAMS(ビームス) × L.L.Bean(エルエルビーン)が盛り上がったのは、単に服が良かったからだけではない。
というのも、コレクションのチェック柄のシャツやベージュのパーカーが売れたのは、モデルがかわいらしいシニアだったからであろう。
このような起用は新しいわけではない。
ある年齢の人なら誰もが持つ洗練された自然な姿が、服装を魅力的に見せている。
時間の経過とともに味が出てくる人間の顔は、毛穴や白髪のないフレッシュなモデルとは比べられないほどにリアルで、洗練されて見える(本記事において洗練と自然体はキーポイント)。
インスタグラムに投稿されるモデル、ロノ・ブラジル(Lono Brazil)のほぼ全ての写真に、メンションを求めるコメントが殺到するのは、彼がただハンサムだからだけではなく、正真正銘、洗練されているからだ。
板についた魅力があるからこそ、年老いたアダム・サンドラー(Adam Sandler)のアメリカの犯罪映画『アンカット・ダイヤモンド』での着こなしは、本当にかっこよかったのだ。
非現実的な服なのに、サンドラーの少し年老いた顔立ちが、生活感を漂わせていてかっこいい。
洗練されていると同時に、自然体でもある。
この2つは、意図的であろうとなかろうと、着こなしがうまい人なら誰もが必然的に備えている。その辺に転がっているものをそのまま着て、自然に仕上げたような、気負いのない姿がかっこいい。
ニューヨークのチャイナタウンを歩く人々は、ノリータの通りの向こう側で気取っている若者達よりも、必ずと言っていいほど、かっこよく見える。努力しない自然なスタイルと、努力するスタイルの違いだ。
このスタイルは、有名人にも見られる。
A$AP Rocky(エイサップ・ロッキー)、Tyler, The Creator(タイラー・ザ・クリエイター)、ジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)は、アッパーイーストサイドの住人が着るようなオーバーサイズのトレンチコート、アーガイルセーター、色落ちしたジーンズのバリエーションを頻繁に着ており、憧れの的になっている。
A$AP Rockyやローレンスは高価な服を着る余裕があるが、彼らが着るMartine Rose(マーティン・ローズ)やGoyard(ゴヤール)、The Row(ザ・ロウ)の服は、これまでシニア達が長い間自然とやってきたのと同じように、古着で簡単に再現することができる。
彼らがこれほどまでに素敵に見えるのは、シニア達が服をうまく着こなせるのと同じ秘伝のタレを使用しているからにほかならない。
そこで、リリー・ジェームズのトレンチコートとスラックスの話に戻ろう。
彼女の服装は、今日のクワイエットラグジュアリーよりも優れている。少しばかりの金銭的なアピールは必要ない。シンプルに素晴らしいシルエットを作り上げて、周りを圧倒するだけで十分だ。これが、「自己流スタイル 入門講座」である。
シニアはそれを熟練させている。彼らはこれまでの人生で自然と着こなす術を得てきたのだから。早いうちに彼らを参考にしてみてはいかがだろうか。
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- WORDS: JAKE SILBERT