style
Where the runway meets the street

2023年は、スキニージーンズが復活し、adidas(アディダス)のサンバが席巻する年となり、クワイエットラグジュアリー(静かで主張しないラグジュアリー)が確実に戻ってきた。その理由は、アメリカのドラマシリーズ『Succession(メディア王~華麗なる一族~)』や、経済情勢、オルセン姉妹(Olsen Sisters)の影響などが挙げられる。「ステルス富豪」が再び姿を現した。

ここ数週間、ファッションに精通しているメディア(私たち自身も含め)が、TikTokで「#oldmoneyaesthetic」と呼ばれるスタイルを取り入れたクワイエットラグジュアリーを身に着けることの本質的な影響力について声を大にして言っている(このハッシュタグは20億回以上も使われている)。

このトレンドは、もはや問題とされているお金より時代遅れになりつつある。

@oldmoneytimeline @ your boys, lets switch the culture #oldmoney #oldmoneyaesthetic #oldmoneycore #class #classic #glowup ♬ gimme gimme gimme – .

裕福に見えることへの昨今の執着は、アメリカ人が抱く昔ながらの富裕層のライフスタイルに対する長年の異様な執着心の一部である。例えば、ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)の古風な車に関して繰り返されるイソップ寓話や 、“金が物を言い、富はささやく” という格言などを聞いたことがあるだろう。

このように裕福な人々は、大衆文化では神のように崇拝されている。イーロン・マスク(Elon Musk)のつまらないミームは彼の信奉者によって崇拝され、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)のノームコア(究極の普通)なスタイルの服装は、技術と創造性を持ち合わせた人物になりたいと憧れる人々によって永遠に模倣されている。

しかし、こうした実業家が着ているかなりつまらないスタイルは、つまり裕福に見せようと必死になる人々の新しい種類のステータスシンボルになっている。この考え方は単純な事実を無視しており、超富裕層のほとんどが、実際にはかなりひどいファッションセンスを持っているということ。

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例えば、「Succession」の登場人物を見てみよう。彼らは陰湿な富裕層のお坊ちゃんで、その下劣さを反映させるために意図的に「ステルス富豪」の服を身に着けている。例えば、ケンダル・ロイ(Kendall Roy)は、約1,300ドルのTOM FORD(トムフォード)のフード付きパーカーや、約1,000ドルのMaison Margiela(メゾン マルジェラ)のセーターなど、革のジッパープルや白いステッチ以外は手頃な価格の服と区別がつかない服を着てくつろいでいる。

1%の富裕層は、裕福すぎてデザイナーものよりも安価なものを身に着けることができず、退屈すぎて何か面白いものを身に着けようと気にすることもない。これはインテンショナルフレックス(特にソーシャルメディアやオンライン上で使用される言葉で自慢や見せびらかしを意図的に行うこと)ではなく、単なる衒示的消費(財力を示し、羨望を集めるための消費)にすぎない。

 

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それが問題なのだ。COVID-19のパンデミックによって利益を得た最低の連中をなぜ、偶像化するのか?

実現不可能なライフスタイルを憧れの対象として位置づけてしまうので、富と趣味を混同するのは危険な行為だ。そして、最悪なことに、それをクワイエットラグジュアリーと呼ぼうが、ステルス富豪と呼ぼうが、コード化されたラグジュアリーと呼ぼうが、極めてつまらないということに変わりはない。

もし本当に超富裕層がおしゃれに興味を持っているのであれば、その深い懐を15,000ドルのネックレスやBrunello Cucinelli(ブルネロ クチネリ)のTシャツ、白いソールの靴よりも、より面白い贅沢品に使うだろう。

素人から見れば、これらはつまらないベーシックアイテムだが、同じように裕福な人々にとっては、これらのアイテムは着用者の財力を象徴している。高級クラブに所属する者同士の、無言のウインクや合図なのだ。

それが真のステルス富豪であり、信じられないほど面白くない。夕食時にアメリカン・エキスプレスブラックカードを取り出すのと同じようなスタイルであり、センスの基準ではなく、ただ膨らんだ銀行口座の自慢にすぎない。

しかし、一般庶民がクワイエットラグジュアリーのロマンに魅了されていることに変わりはない。

この感覚は、アメリカ文化、特にファッションにおいて新しいものではない。ラルフ・ローレン(Ralph Lauren)、ダナ・キャラン(Donna Karan)、ペリー・エリス(Perry Ellis)といったアメリカのデザイナーは、憧れのラグジュアリーライフスタイルのイメージを、自社のブランドの基盤として築いてきた。ただ、ステルスなファッションが人気を博したのは、昨年末以降のことだ。

最近のクワイエットラグジュアリーの急成長は、ミニマルなワードローブやナチュラルメイクを賞賛するリセッションコア(景気下降状態)のようなTikTokが生んだ動きと重なる。

@specsandblazers #codedluxury is always the way to go #FashionTikTok #quietluxury ♬ Cool for summer x Pony – Kuya Magik

リセッションコアが目立つ贅沢を避け、控えめな快適さを重視しているのに対して、クワイエットラグジュエリーは他者の目線を重要視している。ステルス富豪は、実際には見かけより控えめな場合にのみ好まれるようだ。正直、そうであればいい。マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)のような服装よりは、個性的なスタイルの方がいいと思う。

@ainsleycoote Keen to see more and more celebs dress like they’re poor (and yes this style has already become popular in the second half of 22 thanks to brands like Paloma Wool but I expect it to keep trending upward) #fashiontrends2023 #recessioncore #90sminimalism #palomawool ♬ Picanya 2400 – KETTAMA

クワイエットラグジュアリーとは、同じような美的感覚を持つ人にしか分からないような服装を指すと思われがちだが、実際には、2023年3月にスキー場での事故を巡る訴訟でグウィネス・パルトロー(Gwyneth Paltrow)が着用した法廷での服装のように、明らかに高価であることを示す表現として使われている。

PRADA(プラダ)のトータルルック、THE ROW(ザ・ロウ)の巨大なコート、ヴィンテージのCELINE(セリーヌ)など、パルトローは目立つ贅沢なファッションをしていた。贅沢さを隠すことも静けさも一切なく、それでも彼女のファッションは称賛された。

なぜか? なぜなら、彼女が好きか嫌いかは別として(私は好きではないが)、彼女はとてもおしゃれだったからだ。

クワイエットラグジュアリーがそうであるなら、それでいい。富がささやくという考えはどうでもいいということ。少なくともつまらなくなければいい。

ケンダル・ロイよりもパルトローのような富裕層を賞賛する方がいいかは、見た目だけでは判断できない。

私達には手の届かないものであり、手に入れることができないライフスタイルであるため、本当に面白いものを評価した方がいい。

社会的な富の象徴にこだわる風潮を払拭する必要がある。静かにおしゃれをすることは、何もしないよりはマシだと思うが、私はステルス富豪と境界線を引くことにした。

驚くほど大きなバッグを身に着け、マルジェラ時代のHERMÈS(エルメス)のアーカイブを探し、バーキンを愛用し、自分なりのスタイルを表現しよう。ただ、富裕層のようにつまらない人にはならないでほしい。