理解しなくてもいい。
PRADA MODE ニューヨークが問いかけるもの
ニューヨークのチェルシー・ホテルで開催されている「PRADA MODE ニューヨーク:SATELLITES II」は、一見するとコミュニケーションについての展示のように見える。
デンマークの映画監督ニコラス・ウィンディング・レフンと、日本のゲームクリエイター小島秀夫。二人は16年来の親友だ。しかし、彼らは同じ言語を話さない。普段のやり取りも、言葉ではなく写真や映像、音楽が中心だという。
だから今回の展示は、「コミュニケーションの大切さ」を説くものではない。むしろ、その逆かもしれない。
私達はコミュニケーションを、理解し合うための手段だと考えがちだ。SNSでは共感が求められ、あらゆるコンテンツは短時間で理解できるよう最適化されている。分かりやすさは善であり、説明は親切であり、同意は価値だとされる。
しかし「SATELLITES II」には、そのような親切な説明がほとんど存在しない。トークセッションの中でレフンは、人間を「衛星」のような存在だと語った。人は一人で生まれ、一人で死んでいく。それでも誰かの周りを回り続け、時に引き寄せられ、時に離れながら関係を築いていく。衛星とは孤独の象徴でありながら、同時に関係性の象徴でもある。
興味深いのは、二人が友情について語る時でさえ、「理解」という言葉をほとんど使わないことだ。そこにあるのは、理解しきれない他者と、それでも関係を続けるという態度である。
それはどこか現代への小さな抵抗にも見える。アルゴリズムは私達に似た価値観を返し続ける。SNSは共感できる相手との接続を促す。しかし現実の人間関係は、本来もっと曖昧で、もっと面倒で、もっと理解しきれないものだったはずだ。
だからこそ「SATELLITES II」は、コミュニケーションについての展示ではなく、関係性についての展示なのかもしれない。そこには明確な答えも、ブランドからのメッセージもない。ただ、分からない何かと少し長く向き合うための時間がある。
もしこの週末、PRADA MODE ニューヨークを訪れるなら、何かを理解しようとしなくてもいい。その代わり、理解できないものとしばらく一緒にいること。
「SATELLITES II」は、その体験そのものを差し出しているように思えた。
PRADA MODE ニューヨークは、2026年6月5日から7日まで一般公開。一般公開期間中は会場がニューヨーク市内の複数の場所へと拡張され、アンジェリカ・フィルム・センター(Angelika Film Center)での映画上映、プラダ・ブロードウェイ・エピセンター(Prada Broadway Epicenter)でのインスタレーション、カッツ・デリカテッセンでの特別なフードプログラムなど、多彩な追加プログラムが実施される。最新情報は www.prada.com で。
- Photography: PRADA
- Words: Yuki Uenaka