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インドネシアを拠点に、多くのプロジェクトに携わり世界的に活躍する和田直希氏。「SEKAI NO OWARI」のグローバルバージョン「End of the World」のクリエイティブディレクターで、家具のサブスクリプションサービス「KAMARQ」のCEOでもある。KAMARQはニコラ・フォルケッティとタッグを組み、2018年に発足。世界中で展開すると、瞬く間に話題となり、ニューヨークタイムズにも紹介された。昨年の11月には、ニューヨークのソーホーにショールームがオープンした。

また2015年に設立された、アジア系アメリカ人やアジア人のアーティストのミュージックレーベルで、メディアプラットホームの「88rising」。ニューヨークが拠点だが、ロサンゼルスと上海にもオフィスを構える。CEOのショーン・ミヤシロは、ニューヨークをベースにアジア人のアーティストをグローバルに打ち出していく。インドネシアで始まりニューヨークで大躍進するKAMARQと、同じように世界に向けてアジアのミュージシャンを発信する88rising。世界規模で挑戦する2人のCEOの対談インタビューが実現した!

 

和田直希(以下NW):88risingを始めたきっかけについて教えてください。

ショーン・ミヤシロ(以下SM):以前はLAで『Vice』で働いていました。クレジットカードの広告の担当をしていたのですが、とても退屈で。それ以前はダンスミュージック関係の仕事をしていたので、より退屈に感じたのかもしれません。ある日いつものように、友人らと一緒にコリアタウンに食事に行きました。一緒にいたのは、一人は才能のあるラッパーで、もう一人は素晴らしいグラフィックデザイナー。そしてもう一人は映画監督という具合に、僕たちはみんな才能に恵まれたクリエイティブ系のグループでした。素晴らしい才能を持ったグループだけど、僕たちにとってのプラットホームがない。そこで僕たちの才能を発揮するホームをインターネット上で作ってみないか、と提案しました。クリエイターの背景やストーリー、コンテンツを載せるウェブサイトを作りたいと伝えました。すごくシンプルで、わかりやすいアイデアが元になっています。

NW:拠点をニューヨークに移したのはなぜですか?

SM:オースティンの大規模なミュージック・フィルム・アートフェスティバル「SXSW」を知っていますか? 僕は毎年訪れるのですが、2011年に行った時、テキサスからニューヨークに行きました。その理由は、ニューヨークの会社での音楽関係の仕事の話があり、ニューヨークに住めるかちょっとチェックするだけのつもりでした。それまでニューヨークを訪れたことがなかったので、本当に少し様子を見てみるくらいの気持ちだったのですが、そのまま8年間ここにいて、今に至ります。当初はニューヨークが好きになれませんでした。タフだし、お金がないとなおさらきつい。でも今は大好きです。ニューヨークは人をタフにするし、成長させてくれる。

NW:僕は去年にニューヨークでビジネスを始め、2019年11月1日からソーホーでショールームをオープンさせました。

SM:ワーオ! おめでとう! どんなショップなんですか?

NW:KAMARQというNetflixのような家具のサブスクリプションサービスです。月額5ドルを支払うと、家具が利用できて、最低利用期間を超えると家具が交換できる仕組みです。ショールームのスペースを利用して、何かコラボもできたらと思っているのですが。

SM:本当に? 実は今「88NIGHT MARKET」というプロジェクトがあって、オリジナルのグッズをウェブサイトで販売しています。実際に商品を販売できるスポットを探していたんだ!

NW:KAMARQのショールームは広く、僕たちには広すぎるくらいで。どこかとコラボしたいな、と思っていました。

SM:そしたらスペースの一角で、88NIGHT MARKETの店舗を運営できるかも。

NW:先日のニューヨークタイムズにもKAMARQについての記事が掲載されました。このビジネスを始めたきっかけは、インドネシアに住んで11年になるのですが、そこで僕はずっと家具のビジネスに携わっていました。そうすると自分たちが作った家具が使われた後、捨ててしまうことを目の当たりにして、もっと何か良い方法がないかと思ったことなんです。せっかく作った家具が捨てられてしまうのは悲しく無駄も多い。環境に優しくサステイナブルな方法を考えた時、KAMARQのアイデアが生まれました。

SM:88NIGHT MARKETはEコマースのウェブサイトで、オリジナル商品を販売しています。ポスターやTシャツなど、アーティストの商品も展開しています。「GUESS」とコラボしてアパレル商品もリリースしました。様々なアジア系クリエイター達とコラボレーションするプロジェクトが進行中です。イラストレーターの空山基ともコラボレーションをしました。

NW:日本のマーケットについてどう思いますか?

SM:面白いマーケットだと思っています。日本のクリエイティビティは素晴らしい。ディティールが凝っていて、食事でもインテリアでも多分野において素晴らしい。クラフトマンシップが活きている。それについては誰でも知っている。けれど、日本の音楽についてよく知っている人はいない。韓国のバンドはアメリアでも有名です。ということは、僕たちに何かできるかもしれない。僕たちが世界的に有名になる日本のアーティストを発掘できるかもしれない。そういった意味で、とてもエキサイティングですね。個人的に日本が大好きだし、僕自身、日本人のハーフです。日本人のアーティストがグローバルなスタイルを築いていけたら嬉しいです。いかに日本人のアーティストを世界に打ち出していくかも重要です。アーティストにどんな背景があって、どんなストーリーを伝えたいか、語ることが重要です。これは日本のアーティストに限りません。88risingのアーティスト、みんなに言えることですね。我が社のアーティスト、リッチ・ブライアンはインドネシア人ですが、彼は自身がインドネシア人であることを常にアピールしています。日本人のアーティストに関しては、夢が膨らみますね。

NW:88risingのアーティストに対する、日本のマーケットについては?

SM:もっと頑張りたいと思っているところです。日本に我が社のオフィスがないので若干難しいのですが。各マーケットについて、それぞれフォーカスする必要があると思っています。日本のマーケットに熟知しているところとパートナーシップを結ぶ必要があるかもしれませんが、それまでにもっと頑張らなくてはいけません。アメリカではヒットを出していますが、日本や各アジアの地域でも認知されるようにしていきたい。まだメインストリームの域には達していない。来月に発売されるアルバムでは、日本にとてもフォーカスしています。まだ詳しくは教えられませんが、これは話題になると確信しています。期待していてください。

NW:88risingのアーティストには日本人のハーフのJojiがいますね。彼は大阪出身ですか?

SM:そうです。Jojiの夢はコンビニのファミリーマートを持つことです。

NW:(笑)彼はニューヨークベースですか?

SM:以前はニューヨークにいて、現在はLAが拠点です。音楽を作るにはLAの方がいいと言っていました。

KAMARQの家具について、もっと知りたいです。僕達も家具作りにとても興味があります。家具ブランドを立ち上げる、とまではいきませんが、コラボレーションで家具のプロデュースも将来的に興味があります。KAMARQは、月額5ドルの家具の他にも、ラグジュアリーな家具のオプションもありますか?

NW:はい、ベッドなどの大きな家具で、値段が高めの設定のものもあります。僕のビジネスのルーツはOEMと呼ばれる、他者ブランドの製品を製造する形態です。なので、家具であれば基本的にどんなのでも作れます。

SM:しかし、すごいアイデアだね! メインの客層の年齢層は?

NW:ジャカルタや日本での客層が18歳〜20代前半なのに対して、ニューヨークは35歳〜45歳。予想に反してニューヨークの年齢層が高く、ニューヨーカーはエコでいることはラグジュアリーだと感じている証拠かもしれません。寄せられたコメントを読むと、日本は「安い」「家具のデザインが可愛い」などのコメントが多いのに対して、ニューヨークは「エコだ」「環境に優しい」など、サステイナビリティへの賞賛が多い。ニューヨーカーにとって、値段よりも環境への考慮の方が選ぶ基準になっているようです。

SM:なるほど。どこが一番のマーケット?

NW:ニューヨークです。

SM:そうなんだ!

NW:日本の10倍です。Netflixなど、ニューヨークはサブスクリプションに対して慣れているからかもしれません。インドネシアは新しい世代が、サブスクリプションに興味を持っているのでこれからが楽しみです。僕は日本出身で、現在の拠点はインドネシア。あとはアメリカのマーケットに注力しています。

SM:88risingでもインドネシアのマーケットに力を注いでいます。とても大きなマーケットです。

NW:88risingのアーティストについて教えてください。

SM:インドネシア人ラッパーのRich Brianや、シンガーのJoji、中国で大人気のヒップホップグループ、Higher Brothersがいます。アジア人のアーティストを代表することに真剣に取り組んでいます。アジア各国はお互いに違った関係を持っていますが、ここでは世界に向けてお互いにリスペクトし合っています。アジア人であれば、アーティストの出身地は関係ありません。ここで働くみんなが自分たちの仕事を誇りに思っています。

NW:タレントはどうやって発掘したのですか?

SM:誰かを積極的に探すというよりは、自然にそうなりました。誰かが、この人チェックしてみて、と言ったことがきっかけだったり。でも今後はもっと積極的に探さないと。日本人のアーティストをぜひ打ち出したいけど、日本で知っている人はいないし、僕は日本のアーティストについても詳しくありません。

NW:ミュージシャン以外の、映画監督やアーティストとも契約する予定ですか?

SM:もちろんです。多くのアーティストと契約することもできますがそれはしません。アーティストと初期の段階から一緒に働くことが好きです。ビジネス面も重要ですが、それよりもどうやって一緒に取り組んでいくか、ビジョンをクリアにすることが大切です。ビッグアーティストと一緒に働いたこともあるのですが、チームがすでに存在していたので一緒に取り組むのが難しかった。

NW:88risingを始めた時、世界の反応は?

SM:アジア人に限らず、世界中の人々がサポートしてくれました。とてもポジティブな反応でした。アジア人には好評で、ミュージックファンではない人々からも嬉しい反応がもらえました。

NW:最近アジア人キャストだけで製作された映画がトレンドですが、そのことについては?

SM:素晴らしいことだと思います。映画『クレイジー、リッチ!』やK-POPなど、とてもいいですね。アジア映画やK-POPのファンはアジア人だけに限らない。みんな夢中になっている。アジア人ではない人が、音楽や映画などカルチャーを通してアジアの国に興味を持つ。これは素晴らしいことです。僕自身アジア人ですが、Rich Brianと契約するまで、インドネシアについては何も知らなかった。今では少しは知っていますが、深い知識があるわけではない。Rich Brianが世界に与えるインパクトを考えるとすごいですね。彼の音楽を通して、多くの人がインドネシアに対して興味を持つ。日本に対しても多くのことを知っている人は少ないと思うので、日本人アーティストのプロデュースを通して、今後日本の文化をオープンにしていけたらと思います。

NW:僕は同じ気持ちで「End of the World」のクリエイティブディレクターになりました。彼らは素晴らしいバンドで、日本では大人気ですがアメリカではまだあまり知られていない。彼らを世界中の人に知ってもらいたいと思っています。今後の展望は?

SW:一生懸命挑戦し続けていくことです。もっと音楽を作っていきたい。もっとプッシュしないといけない。みんなの期待がかかっているし、僕たちは目標を達成しないといけない。

NW:ありがとうございました。