life
Life beyond style

Richardson Magazine(リチャードソン マガジン)』が掻き立てる興奮は、現代社会に対する公明「性」大な問いかけだ。どんな劇薬よりも刺激的、どんなポルノよりも官能的なヴィジュアルとメッセージは、どんなバイブルよりも実直に訴えかけてくる。

——リチャードソン マガジンはポルノであり、政治的であり、問題提起でもあります。制作の際にはポルノをかなり真面目に捉えるとのことですが、その意図とは?

昔からマドンナの写真集『SEX』に携わったり、ニューヨークのホイットニー美術館で開催されたリチャード・プリンスの展覧会『スピリチュアル・アメリカ』を観たりする中で、アート、セックス、政治が混合したものに興味をそそられてきたんだ。それがリチャードソン マガジンのベースになっている。性という刺激を、ポルノというクライマックスまでにエスカレートさせないかたちで醸成したいと思った。

——アートかポルノかは聞き飽きているかもしれませんが、性的描写に対する読者の受け取り方について考えはありますか?

ポルノを卑猥と思うかどうかは実際のところ、文化的、歴史的、個人的な受け取り方次第だ。でもリチャードソン マガジンは、中間領域にあるものについて問いかける場所として存在していると思っている。ポルノや卑猥であるとすればそれはなぜか。ポルノや卑猥でないとするとそれはなぜか。興奮する、そうでない理由、思考を掻き立てる、掻き立てない理由。毎号、チーム全員でその問いかけをしながらつくっている。あとは自分達が求めるものをつくっている部分もある。自分達が面白いと思うものは何か、どういうコンテンツであれば今という時代が最もよく反映できるかを考えながら。

——過去のインタビューでは、ポルノをポルノという視点ではなくて、パンクとして捉えるとおっしゃっていました。その発想に至った時代背景や、当時のファッションに対する(パンクな)思いについて聞かせてください。

スタイリストとして駆け出しだった頃はグランジが登場したての時代だった。スティーブン・マイゼル(Steven Meisel)と仕事をしていたから、粗悪さを味とするグランジのローファイな性格は使いたかった。でもドラッグの部分はセクシャルなものに置き換えたいと思った。ブリティッシュパンクはセクシャルな挑発を大いに含んでいて、世代の対立、戦後の社会的モラルの終焉を意味していた。その時代に育った自分は、パンクの影響を強く受けた文化に囲まれていた。だからスタイリストとしての自分の発想もリチャードソン マガジン自体の発想も、パンクの流れを受け継いでいると思う。

——セックスカルチャーと社会との関わり、その役割をあげるなら?

今の時代は、性的なものもそうでもないものも含めて、とにかく自己表現というものが文化の先端にある。それでも抑圧(特に性的保守主義)は依然強いし、逆に昔以上に抑圧が強くなっているように感じられることさえある。その一部には、今の世の中には情報が溢れていることや刺激が多すぎることが関係していると思う。ツールやリソースに手が届きやすくなっている一方、そうしたもの(特にインターネット)は制御の難しいものでもある。現代という情報時代は、究極的には、進歩や個々人の理解向上、受け入れに向けてのチャンスになるとは思っているけれど、そうした進歩、進化を起こすには協力が必要だと思う。自然と進歩、進化していくものではないから。

——ポルノ業界に携わる人や会社を見る目にまだまだ偏見があり、メディア露出にも制限があります。例えば、ポルノを扱う雑誌に広告を掲載しない、など。ストリートやパンクなどのアンダーグラウンドなカルチャーが社会やファッションにおける立ち位置を証明し、メインストリームになったことを踏まえると、セックスカルチャーにもそのポテンシャルがあると考えますが、アンドリューさんはどう思いますか?

未熟な段階にあるインターネットを正しく機能させるためにはユニバーサルな基準への適合が必要だ。アルコールや糖類、タバコみたいな刺激物やポルノも生活の一部になっていて、普及に伴う責任は、取り扱う企業、規制当局、消費者それぞれが受け入れなければいけない。禁止すると大体失敗するのが歴史的な事実だ。だから改革、安全確保、有害性低減という方向で考えていく必要がある。

パンクやその他の「アンダーグラウンド」カルチャーについては、それが「主流」になったときに失われる側面について考えるのも重要だと思う。パンクの性的挑発は反体制的な文化思想に根ざしていた。そういうものは商品化されて広く受け入れられるようになってしまうと尖りを失う。でも性的表現は人間にとって根本的に重要なものだからパンクとは違う。単なる社会の不満に対する反応ではないんだ。性的なものを強く抑制した場合にどんな文化的精神が生まれてくるかは考える必要がある。結果、パンクのようなものが生まれてくることはあるだろうけれど、性はもっと根源的なもので、社会の幸福度は性的にオープンであればあるほど明らかに高まる。それがこれからの進歩の道筋になることははっきりしている。

——最新号のカバーストーリーについて、どのような意図で今回のモデルを選んだのでしょうか。今回世界に投げかけたいパンクとは?

現代の女性を体現する存在としてドミニク・シルバー(Dominique Silver)を選んだ。アフリカ系アメリカ人のセックスワーカーでトランスウーマンのドミニクには、今の世の中で重要な体験がたくさん詰まっているし、とても美しい人だ。道徳をテーマにした今回の号に、容姿もストーリーも完璧だった。物議を醸そうということではなく、普通であれば躊躇われる会話でも推進することが大事だと考えた。シェーン・オリバー(Shayne Oliver)との対談で、シルバーはアイデンティティ、セクシュアリティ、倫理と、現代の抱える多くの複雑な問題について話しているよ。